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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)5532号 判決

原告 高辻政太郎

被告 五味次雄

一、主  文

被告は訴外福井俊司に対し、別紙目録<省略>記載の土地に付き、東京法務局中野出張所昭和二十四年三月十四日受付第一三〇五号抵当権設定登記、同日受付第一三〇六号所有権移転請求権保全仮登記、同二十五年九月七日受付第六一二四号及び同年十月十二日受付第七〇九七号所有権取得登記の各抹消手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、其の請求の原因として別紙目録記載の土地(以下本件土地と略称する)は訴外福井俊司の所有であつたが、右訴外人は昭和二十四年三月十四日被告から金八万円を利息月一割五分弁済期日は同年五月十三日の定めて借受けることとし、貸付当日から右弁済期日までの二ケ月分の利息金二万四千円を天引されて金五万六千円の交付をうけ期限後は元金百円に付き一日五十銭の割合による遅延損害金を支払うことを約し同日右債務について被告のために本件土地に抵当権を設定して同日東京法務局中野出張所受付第一三〇五号を以つて抵当権設定登記をすると共に右債務を期限迄に弁済しない時は、代物弁済として本件土地の所有権を移転する旨契約をし、同日同所受付第一三〇六号を以つて所有権移転請求権保全の仮登記をした。

原告は同年八月二十八日前記訴外人から本件土地を抵当権付きのまま買受け、右訴外人の被告に対する債務の支払を引受けた外金五万円を支払うこととし、即日金三万円を支払い残金二万円は被告に対する債務を弁済し、前記抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全仮登記の各抹消手続を完了した時に支払うことを約した。よつて右訴外人は同年八月二十八日被告に対して、本件土地を原告に譲渡したこと、及び右訴外人の被告に対する債務は原告が支払うことを通知した。そこで原告は同年同月三十一日被告方に右債務の金八万円に之に対する同二十四年五月十四日から同二十五年八月三十一日迄の利息制限法による年一割の遅延損害金を加算して金九万六百六十七円を持参して被告に対し弁済のため提供したが、被告は正当な理由がないのに受領を拒絶したので原告は同日東京法務局に右金九万六百六十七円を供託した。然るに被告は同年九月七日受付第六一二四号及び同年十月十二日受付第七〇九七号を以つて同年八月三十日代物弁済により本件土地の所有権を取得した旨の所有権移転登記をした。

けれども訴外福井の被告に対する債務は前記の如く原告の弁済によつて既に消滅したから此の債務を担保する為めの本件土地に対する抵当権及び代物弁済契約は何れも消滅したものであるから前記抵当権設定登記及び所有権移転請求権保全仮登記は何れも抹消されねばならない。

次に被告は前記の如く原告の弁済提供をした同二十五年八月三十一日迄は本件土地の所有権を取得して居なかつたにも拘らず、同年同月三十日右所有権を取得した旨の同年九月七日付及び同年十月十二日付の各取得登記は真実と異るものであるから之も又抹消されなければならない。

依つて原告は訴外福井から本件土地を買受け所有権を取得し、右訴外人に対し所有権移転登記をなすことを請求する権利があるから右訴外人に代位して被告に対し前記登記の抹消を求めるため本訴に及ぶと陳述し、被告の抗弁事実に対し訴外福井から原告に対し本件土地の売買契約を取消す旨の意思表示があつたことは認めるが、右契約が原告の詐欺に基くことは否認する、と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中被告と訴外福井との間の金銭消費貸借の利率の点を除いて他は総て認める。即ち被告と訴外福井との間における消費貸借の利息は月一割であつた。

抗弁として原告と訴外福井との間の本件土地の売買契約は原告の詐欺に因る契約であつたので、訴外福井は昭和二十五年十月十九日原告に対し之を取消す旨の意思表示をなし該意思表示は翌二十日原告に到達した。従つて原告は本件土地の所有者ではない。

仮りに然らずとするも被告と訴外福井との間において前記債務につき弁済期限後は元金百円につき一日五十銭の遅延損害金を支払うべき契約が成立して居たのであるのに、原告がなした弁済の提供並びに供託は右約定の損害金を加算して居ないから債務の本旨に従つた弁済と言うことが出来ない。

従つて、原告が被告に対し本件土地について各登記の抹消を求めることは何れよりするも理由がないものであると陳述した。<立証省略>

三、理  由

訴外福井俊司が昭和二十四年三月十四日被告から金八万円を弁済期日、同年五月十三日の約で借受けることとしその際被告は貸付当日から弁済期日までの二ケ月分の利息として金二万四千円を控除して金五万六千円を交付したこと(被告は利息は月一割の約定の旨主張するけれども証人福井俊司の証言によると月一割五分の約定であつたことが認められる。)同時に右訴外人がその所有に係る本件土地について被告に対し原告主張のような抵当権設定契約及び代物弁済契約をなし之が登記を経由したこと、及び原告がその主張の日右訴外人から本件土地をその主張のような約定で買受けたことは当事者間に争がない。

被告は原告と訴外福井との間の前記売買契約は原告の詐欺によるものであつて右訴外人において之を取消した旨抗弁するから、按ずるに証人福井俊司の証言によつても原告が右訴外人を欺罔して本件土地を買受けたものと認め難く、その他被告の全立証によるも右事実を認めることが出来ないから被告の右抗弁は採用することが出来ない。

そして原告が右訴外人の債務としてその主張の日その主張の如き金員を被告に対し弁済のため提供したこと及び被告がその受領を拒絶したので原告は右金員を供託したことは当事者間に争がない。

被告は訴外福井に対する前記消費貸借契約においては弁済期日後は百円につき一日五十銭の割合による損害金を支払う約定があり、原告が弁済のため提供した前記金員には右約定の損害金を加算してないから債務の本旨に従つた弁済の提供ではないと主張し、被告と右訴外人との間において被告主張のような損害金の約定のあつたことは原告の認めるところである。よつて原告の右供託によつて訴外福井の被告に対する前記債務が消滅したかどうかを検討する。先づ右貸金の元本について按ずるに金銭の消費貸借は借主に金銭が現実に交付されるか、または現金の授受と同一の経済上の利益を与えなければ有効に成立しないのであるが、本件において被告と訴外福井との間に現実に授受があつたのは金五万六千円であり、これに加えて二ケ月分の利息金が前払されていること前叙認定の通りであるから、その利息金が利息制限法の認める範囲内である限り借主において現金の交付をうけたと同様の経済上の利益が与えられたものと謂うべきである。そして右貸借において利息制限法所定の利息は年一割であること明白である。さうすると被告と右訴外人との間に有効に成立した消費貸借契約の金額は現実に授受のあつた金五万六千円と之に対する年一割の割合による二ケ月分の利息金九百三十三円三十四銭(銭位下繰上)以上合計金五万六千九百三十三円三十四銭であること算数上明らかである。

次に損害金の約定について考えるに被告と右訴外人との間の前記貸借が商事に係るものと認める証拠のない以上右貸借について利息制限法第五条の適用あること明らかであつて、しかも右両者間に前記のような高額なる損害金の約定が特になされたことについて何等の特別事情の見るべきもののない本件においては右損害金の特約は不当であつて諸般の事情を考慮すると右損害金の約定は百円につき一日十銭に減少するを相当と謂わなければならない。

そして被告が供託した金九万六百六十七円が右認定の元金五万六千九百三十三円三十四銭と之に対する昭和二十四年五月十四日から供託当日の昭和二十五年八月三十一日までの日歩十銭の損害金を附加した金額を超過すること算数上明白であるから訴外福井の被告に対する前記貸金債務は原告の右供託によつて消滅したものと謂うべきである。

そうすると右債務を担保するため本件土地に設定された抵当権及び代物弁済契約は消滅したこととなり、被告は右訴外人に対し本件土地に存する抵当権設定登記並びに代物弁済の仮登記を抹消する義務あるものと謂わねばならない。

又被告が昭和二十五年九月七日及び同年十月十二日本件土地につき同年八月三十日付代物弁済によつて所有権移転登記をしたことは当事者間に争がないけれども被告と訴外福井との間の右代物弁済契約が代物弁済の予約の趣旨であることは被告の認めるところであつて、そして被告が原告のなした前記弁済の提供まで右訴外人に対し右代物弁済の予約を完結する意思表示をしたものと認める証拠のない本件において被告は右日時まで本件土地を代物弁済によつて所有権を取得したものと謂うことが出来ず、従つて前記所有権移転登記は事実に符合しない無効のものと謂うべきであつて、被告は右訴外人に対し之が登記を抹消する義務あるものと謂わなければならない。

そして原告が訴外福井から本件土地を譲受けたことは前に認定した通りであるから右訴外人に代位し被告に対し本件土地につき存する前記各登記の抹消を求める原告の本訴請求は正当として認容すべきものとし、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 花淵精一)

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